山梨大学国際ブドウ・ワインセミナー
(主催)山梨大学 ワイン科学研究センター

温暖化とブドウ 「ブドウの生理と温暖化に対する応答」
“Grapevine physiology & development in response to warming”

ロラン トレグロサ教授 Prof. Laurent TORREGROSA
仏 モンペリエSupAgro

温暖化対策については聴講者の関心も高く、当日は110名程にご参加いただき盛況のうちに終えることができました。

1.ブドウの生理に与える温度の影響【栄養器官(葉・茎・根)/果実)】
 今後世界全体の平均気温が上昇すると予想されるが、空気中の二酸化酸素濃度も増加している。光合成により生成された炭素がブドウ果実の主成分である。 光合成で得た炭素は多くを1次代謝(糖分、有機酸など)に利用し、わずかな残りを2次代謝(果皮の色素、香気成分前駆体の生成)に使用する。光合成により生成した炭素を消費するブドウ樹の呼吸(光呼吸と夜の呼吸)は「温度」の影響を受ける。従って、光合成と呼吸のバランスを考える必要がある。

2.栽培方法の変更【早期収穫/光合成効率とシンク・ソース/微機構/植物気候学的解析】
 温暖化により今まで以上に光合成が活発化し糖の蓄積量が過剰になる為、地中海周辺等温暖な気候の地域では糖濃度を下げるための栽培方法を試みている。例として、早期収穫、除葉、網・カバーによる遮光、蒸散抑制スプレーの散布、キャノピーシステムの変更(最小剪定)、遅い時期での剪定、台木の選択の工夫などがある。

3.遺伝的改良と選抜【台木の適応性/品種選抜】
 台木の適応性を求め、温暖化に適応できる品種の開発が行われている。これまでよりも高い積算温度が必要な晩生の品種開発と品種選抜が必要である。

【まとめ】
 ワインのアルコール濃度を下げることは今後も挑戦であり、いくつかの栽培技術による問題解決の可能性がある。また、ブドウにも適応性があり(補償応答)、糖度が低いブドウでは適切なポリフェノール/アロマが無い可能性がある。実験は一義的で普遍的な結果ではないが良い結果を出すにはいくつかのアプローチを組み合わせる必要がある。最も時間がかかるが有効な方法は新品種開発である。