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研究内容

      高品質なワイン製造に向けて、醸造用ブドウを丸裸にするべし
 
<植物生理学>

 
‘甲州’ワインのEU輸出を糸口に、我が国のワイン産業は国際競争力の強化に舵を切っている。わが国の成人一人当たりの年間ワイン消費量は2.3Lで、清酒(6.0L)や焼酎(4.8L)の年間消費量を考えると、ワインは日本人の酒類の選択肢のひとつとして定着したと言える。しかし、国内で消費されるワインの2/3は輸入ワインであり、また国産ワインの原料の多く(>75%)は濃縮果汁などの輸入原料である。すなわち、日本で消費されるワインのうち、原料ブドウから国内で生産されている「日本ワイン」は一割にも満たない。これは日本ワインを製造するための原料が不足していることにも起因する。日本のブドウ栽培(結果樹)面積は18,000 ha、収穫量は約20万トンと漸減状態にある中、生食用ブドウがその9割を占め、ワイン等加工用ブドウは1割程度でしかない。従って、日本ワインの国際競争力を強化するためには、日本で栽培される醸造用ブドウの産地構造を立て直す必要がある。
   このような背景のもと、我が国のワイン産業が注目する醸造用ブドウ品種が‘甲州’である。‘甲州’はわが国で商業栽培されている唯一の在来ブドウ品種で、ヨーロッパ系醸造用ブドウの血を引く。‘甲州’は、夏期に高温多湿となるわが国の風土にも栽培適性があり、山梨県を中心に、山形県、大阪府、島根県でも栽培され、わが国の白ワイン用原料として重要な位置づけにある。一方、‘甲州’ワインは際だった個性が少なく、フラットな味わいになりがちであるため、醸造家および消費者の両サイドから‘甲種’ワインおよび‘甲州’果実の品質向上が望まれている。しかし、科学的解析に基づく‘甲州’果実の包括的な成分分析データがないため、どのようなブドウ由来成分を増加/減少させればよいのかさえ明確にされていない。依然として農家および醸造家の経験則に基づくブドウ栽培とワイン醸造に依存している‘甲州’ワインの現状を打破するためにも、科学的根拠に基づく‘甲州’ワインの高品質化への取り組みが必須である。
  我々は‘甲州’全ゲノムを解読し、ヨーロッパ系醸造用品種との比較ゲノム解析により得られた‘甲州’の遺伝的特徴(ゲノミクス)、生理的特徴(フェノミクス)並びに成分代謝的特徴(メタボロミクス)を顕在化し、総合オミクス解析による‘甲州’ワインの高品質化戦略を目指している。
[キーワード] 全ゲノム解析、統合オミクス解析
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● ブドウは接木、挿し木で栽培されることから、理論的には、遺伝的に同じクローンが植えられている。しかしながら、芽状変異といった突然変異がブドウで頻繁に起こることも事実である。我々は優良形質の遺伝的マーカー、あるいは逆に形質劣化を引き起こす遺伝的マーカーを検索しており、将来的に「山梨大ブランド」の優良なブドウ苗木を提供することを目指している。加えて、ウイルスフリー苗の高効率生産技術の開発もお行っている。
[キーワード] マイクロサテライト、レトロトランスポゾン、ミトコンドリアDNA、SNPs、ウイルスフリー





参考資料

 ● ブドウの優良形質の一つに「香り」がある。ブドウ果実が持つ香りはワインには欠かせない形質であるが、香りに主眼を置いた作物、果樹の分子育種は少ない。我々は香り高きブドウを育種するための基礎研究として、品種特有香の同定、その生合成経路、配糖体修飾経路の解明を行っている。これを解明することが、香り高いブドウ果実の分子育種に繋がる。
[キーワード] 香り成分、テルペン化合物、グリコシド結合、配糖体、官能評価

 
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● ブドウの形質転換系は巨峰などで成功しているが、その形質転換効率は低く、問題が山積みである。我々はブドウ培養細胞系の安定的培養法、高確率な遺伝子導入法および植物体への高確率再分化法を検討している。これらと組み合わせる技術として、CRISPR-Cas9系によるゲノム編集実験系を構築している。また茎頂培養による矮性変異体のスクリーニングも行っている。
[キーワード] 培養細胞、茎頂培養、Agrobacterium、パーティクルガン、ゲノム編集


<植物病理学>

● ワイン用ブドウ品種は一般にカビやウィルスなどの病原菌に対して非常に弱い。我々は耐病性ブドウの分子育種を目指し、その基盤となる基礎研究として病原菌(カビおよびウィルス)のブドウへの感染とそれに対するブドウの生体防御機構を遺伝子レベル、タンパク質レベルで解析している。
[キーワード] リスベラトロール、PRタンパク質、キチナーゼ、ユビキチン

● ワイン用ブドウ品種では「病気の発生=ブドウ収量の激減」を意味する。またブドウのウィルス感染はブドウ果実の品質低下を引き起こす。これを未然に防ぐためには病原菌、ウィルス感染ブドウの早期診断法の開発が必要である。我々はブドウの各種病原菌を検出する方法を開発しており、現在圃場実験のステージまで進めている。また、環境ストレスに対するブドウの生理反応も研究対象にしている。
[キーワード] ブドウ灰色かび病、ブドウ晩腐病、ブドウべと病、ウィルス病、熱ストレス、乾燥ストレス
参考資料

● 先ほどから述べている理由でブドウ栽培には「農薬」は欠かせない。しかしながら近年、特定の農薬に耐性を示す病原菌(耐性菌)が出現しており、今まで効果のあった農薬がまったく効かないという場面がよく見受けられる。現在では耐性菌の出現を考慮しながら農薬の種類、時期、散布量を管理する必要性がある。我々はこの現状を打破するための第一歩として、山梨県内に所在するワイナリーから病原菌を採集し、耐性菌の地域分布、耐性メカニズムの解明にあたっている。また拮抗微生物を利用した生物農薬の開発にも力を注いでいる。
[キーワード] 多剤耐性菌、地域分布、生物農薬、拮抗微生物





参考資料