私達の研究室では、ワインに含まれる成分のうち
主として食品科学の第2次機能(感覚・嗜好性:おいしい、きれいなど)に関する成分の解析をしています。これらの成分を通して、ワインの製造過程を見直し,ワインの品質が向上し、美味しいワインが飲めることを目標にしています。

最近の研究テーマ
◆ワインの「酸化」を科学する
酸化とは、その字のとおり物質に酸素が化合する反応、あるいは物質が水素を奪われるなどの化学反応のことをいいます。ワインでは、含まれる成分がこの酸化反応をうけると色や香り、味が変化します。この酸化反応ですが、酵素が関わる酵素的酸化反応と酵素が関わらない非酵素的酸化反応があります。さらに、酸化反応には、光、熱、金属など様々な要因が関わっており、特にワイン中には様々な成分が複合的に存在するため、ワイン中での酸化反応はとても複雑です。本研究室では、ブドウおよびワイン中に含まれるポリフェノール化合物の酸化による構造変化や、これによる色や味への影響について研究を行っています。これにより赤ワインの熟成中による色の変化(赤色から赤褐色への色調変化)や渋味の変化のメカニズムが解明されることが期待されます。さらに、これらの成分の構造変化を明らかにすることで、ワインの色調の安定化や熟成度の測定指標をつくることができると考えています。


◆気候変動に対応したワイン造りを考える
地球規模の気候変動による気温の上昇により、ブドウの酸度が低下しワインのpHは上昇しています。ブドウへの主な影響として、糖度の上昇、成熟後期の有機酸の低下などがあげあれます。特にpHの高いワインは、微生物汚染や酸化のリスクが高くなるため、ワインの品質に直接影響してしまします。このような状況の中、どのようなワイン造りを行えば品質を保つことができるのか研究を行っています。


◆微生物汚染を防止する新規化合物の探索
ワインの品質を低下させてしまう要因の1つに微生物汚染があります。ワインでおこる微生物汚染は、一般的な食中毒菌とは異なり健康被害を起こすことはありませんが、不快な臭いを発生させてワインの香りを損なわせてしまいます。当研究室では、ワインで生じる微生物汚染の1つ産膜汚染について研究を行っています。これまでにブドウ品種により、この産膜汚染のしやすさが異なることを報告しました(https://doi.org/10.20870/oeno-one.2021.55.3.4730)。さらに、この産膜汚染を防ぐための新たな抑制成分の探索も行っています。本研究により、さらなる日本ワインの品質向上に貢献することを目指しています。〈科研費 基盤研究(C)〉


◆ワインの味に関する研究
ワインは嗜好飲料であり、香りや味を楽しむ飲み物です。ワインの味はワインごとに異なり、これがワインの違いや個性となっています。その味の違いがワインのどのような違い(成分や物理化学的要素)で生じるのかを機器分析と官能評価を用いて明らかにすることを試みています。この研究で大きなカギとなるのは、その味の違いを言葉で定義し、さらにその味の参照(その香りや味を評価するための指標物質など)を作成することです。例えば、「まろやか」という感覚を感じたときに、これを言葉で説明し、さらに「まろやか」を学習するための参照がないと、官能評価試験をすることができません。私達は、この研究を通して味の質的な違いを評価する方法についても検討を行っています。〈ミッション実現実践研究〉


◆ワイン製造残渣の有効活用
ワイン醸造で大量に発生するブドウの搾りかすは、大部分が産業廃棄物として処分されています。一方、この残渣には、様々な機能性成分が含まれており、これを有効活用することは、持続的なワイン造りを実現することにも貢献します。本研究では、ワインの製造時に出るぶどうの搾りかすを使って、揮発性有機化合物(VOC)に汚染された土壌や地下水を浄化する薬剤の研究開発を行いました(https://doi.org/10.1016/j.biteb.2022.101322, )。本研究成果で、大橋氏が博士号を取得されました。〈共同研究〉


◆国産木材のワインへの活用
日本は世界有数の森林大国であるにも関わらず、林業の担い手不足により整備・管理が十分に行き届いていません。この打開策として、森林の新たな活用法を見出し、林業の担い手を増やすこと、それにより森林が整備管理され豊かになることを目指しています。本研究室では、森林総合研究所との共同研究で、国産材のワインへの利用について研究を開始しました。国産材に含まれる成分やこれら成分がワインの官能特性に与える影響などを調べています。〈共同研究〉


◆新たなワイン分析方法の開発
ワインの微生物汚染や酸化を防止する目的で亜硫酸が使用されています。ワインに添加する亜硫酸は、揮発やワイン成分との結合などによって醸造工程中に変化していきます。従って、醸造工程ではその濃度を測定し把握することで、必要な量が維持されているか管理しています。一方で、頻繁に亜硫酸濃度を測定することは大きな負担にもなっています。亜硫酸濃度の測定には、一般的に通気蒸留・滴定法(ランキン法)が用いられていますが、蒸留操作や滴定操作があり、測定値がでるまでに時間がかかります。そこで、山梨大学工学部 井上久美准教授との共同研究で、亜硫酸をより簡便に測定できる新たなセンサの開発に着手しています。井上先生の研究室HPはこちら〈共同研究〉



◆◆研究室 紹介動画◆◆


※昔の研究ポスター

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