オーストラリア研修報告

 2016年2月20日(土)より2月28日(日)までワイン・フロンティアリーダー養成プログラムのオーストラリア研修が行われました。受講者の中から希望者7名がアデレードに滞在し、南オーストラリアの銘醸地アデレードヒルズ、バロッサバレー、マクラーレンベイルのワイナリー9社とワインオーストラリア、アデレード大学、オーストラリアワイン研究所などの各研究機関の視察を行いました。

 この研修は、国際競争力強化カリキュラムの一環として行われ、オーストラリア政府組織や大学、研究所の視察と各関係機関関係者との意見交換を行い、オーストラリアワインの最近のマーケット情報やワイン法、最新の研究内容について学習する他、南オーストラリアの最新のワイン産業の実態を把握し、国際化を目指す日本のワイナリーに応用可能な技術の習得に努めることを目的としています。

 研修内容の一部を紹介します。

(1) ワインオーストラリア視察

 ワインオーストラリアはオーストラリア連邦政府により1981年に設立されたオーストラリアワインの戦略的マーケティングや法令を管轄している行政機関です。今回の訪問では、アジア地区事務局の手島様をはじめ、3人の関係者によるオーストラリアワインの最新マーケット情報や海外戦略、ワイン法、最新の研究内容について説明していただくことができました。その後、昼食を取りながらの意見交換会が行われました。

(2) アデレード大学の視察(圃場とワイナリー)

 アデレード大学 は、1874年に創設された南オーストラリア州アデレードにある国立大学です。オーストラリアの大学としては3番目に歴史が古く、ヘルスサイエンスやエンジニアリング、サイエンスの分野は国際的評価が高く、その他にもワイン研究所や、美食学などの特異なプログラムもあります。

大学のワイン醸造施設

 今回は、ウィルキンソン教授の案内で大学構内にあるワイナリーや圃場、各種教室を見学し、その後、大学のワインに関するプログラムの説明を受けました。誰でも使えるというワイン醸造ゲームのアプリケーションはとても楽しく、日本からもアクセスできるとか。教室では、ワインの分析実習をやっていました。生徒のほとんどがアジア人だったことに驚きました。

(3) AWRI(オーストラリアワイン研究所)の見学

 AWRIに勤める日本人研究者・早坂先生の案内で、研究所の各研究スペースやワインの輸出のための成分分析をする場所を見学しました。この機関は、(1) のワインオーストラリアからの研究費などで運営されており、充実した施設内には高価な分析機械がいくつもあるのがとても印象的でした。

AWRIの早坂研究員(写真左)とアデレード大学のウィルキンソン教授(写真右)

 AWRIでは、最新の研究について説明を受けた後、2人の受講生が日本ワインについてのプレゼンテーションを行い、その後、山梨県産ワインの試飲会を行いました。研究所の先生たちは、日本のワインを初めて口にする人ばかりだったようで、みなさんワインに興味津々。いろいろな種類のワインを利き酒していただきました。最も人気が高かったのが、ブラッククイーンの赤ワイン。「強いタンニンがないので、食事に合わせやすく、気軽に楽しめる」と高評価をいただきました。

山梨県のワインの試飲会
プレゼンテーション風景
 
AWRI内の研究スペース

(4) アデレードヒルズのワイナリー見学

 アデレードヒルズは南オーストラリアのワイン産地の真ん中あたり、冷涼な気候と豊かな日照量により素晴らしいワインができる産地です。私たちは、Shaw And Smith、Ochota Barrels の2か所のワイナリーを見学しました。

Shaw And Smith ワイナリー

 Shaw And Smith ワイナリーは丘の上にある1989年設立のとても美しいワイナリーでした。案内してくださったのは、Dan Coward さん。一つ一つ丁寧にワインの説明を受けながらのテイスティングと広くて清潔なワイナリーの見学をしました。

Ochota Barrels

 写真の男性がワインメーカーの Taras Ochotaさん、アデレード大学で醸造を学んだあと、各地でワインメーカーとして勤務した実力派です。
 驚くことに、ワインは庭に置かれた小さなタンクで発酵されていました。南オーストラリアでも比較的冷涼なレンズウッドの森の中とはいえ、アウトドアで造られるワインがどんな味わいがするのかとても興味がわいてきました。実際に飲むと驚くほど柔らかな香りのよいワインでした。優しい人柄とワインの味わいがとてもマッチしている小さなワイナリーです。

(5) バロッサバレーのワイナリー見学

 バロッサバレーは約150のワイナリーがあるオーストラリアでも最古のワイン産地。今回は Cirillo Estate Wines、Torbreck Winery, Gibson Wines, Henschke Wines, Yalumba の4社を見学しました。

Cirillo Estate Wines

 2003年設立の家族経営の小さなワイナリー、庭にはたくさんのヤギが飼われていました。「このヤギのお肉はここで造るワインととても相性が良い」と笑いながら話してくれたのはオーナーワインメーカーでブドウ栽培家でもある Marco Cirillo さん。チリッロ・ファミリーはイタリアから移住した家族です。グルナッシュの樹がこの地に植えられたのは1848年、樹齢150年以上の古木です。ブドウ畑を歩いていると、まるで砂浜のような薄黄色のパウダー状の砂に足を取られます。このような乾燥した大地と強い光が差し込むこの場所で育つブドウの樹は葉が生い茂り、ブドウが隠れて見えないほどでした。

 ランチは Barossa Grape & Wine Association の Nicki Robins さんと James March さんを囲んで。バロッサバレーのブドウの話や気候の話、ワイナリーの話など情報交換できた貴重な時間でした。

Torbreck Winery

 名前はオーナーであるデビットパウエルがスコットランドで木こりをしていた時の森の名前に由来しているそうです。1994年からバロッサバレーでワインを造っています。訪問した時は、ちょうどシラーズが発酵しているところでしたので、辺り一面発酵中のワインの良いにおいに包まれていました。「畑のブドウはほとんど収穫してしまった後だ」と話されていましたが、一部まだ残っていたので、畑でブドウの栽培の話を聞きながら、ブドウを試食することができました。

Gibson Wines

 こちらも家族経営の小さなブティックワイナリーです。オーナーは Rob Gibson さん。真剣になりすぎて、静かにワインをテイスティングしていた私たちに「お葬式かい?もっと元気にワイン飲もうよ!」なんて、とても明るくチャーミングな方でした。

Henschke Wines

 1862年ドイツからの移民であるヨハン・クリスチャン・ヘンチキによって造られたワイナリーで現在6代目(写真)。ワイナリーのあるエーデンバレーは太陽に恵まれた美しい大地、樹齢130年にもなるシラーズの古木から造られるワインが有名なワイナリーです。
テイスティング用にたくさんのワインを用意してくださり、パンフレットには、きちんと学校名が添えられていました。

 テイスティングのあと、最も古いシラーズが植えられているヒル・オブ・グレイスの畑を見学に行きました。

Yalumba

 1849年にイギリスからの移民ミッシェル・スミスにより創業されたオーストラリア最古の家族経営のワイナリーですが、家族経営とは思えない大きさとゴージャスな建物、さらに美しく手入れの行き届いたお庭、どこまでも続くブドウ畑、広いワイナリー、そしてなんと樽工場まで持っています。そのお城のような建物の上に、私たちを歓迎して掲揚された国旗が青い空に旗めいていました。とても感激しました。1980年代にオーストラリアではまだ珍しかったヴィオニエを植え、それ以来このワイナリーの象徴的な品種へと成長していったそうです。

(6) マクラーレンベイルのワイナリー

 マクラーレンベイルは南オーストラリア州のワイン産業の発祥地だそうで、小さなワイナリーがたくさんあるそうです。海に近く、地中海性の気候のこの地も、南オーストラリア州の他の銘醸地と同じくシラーズを中心に栽培されているようですが、近年はそれ以外の品種で造られるワインが増えてきたそうです。私たちはまず、マクラーレンベイルのブドウ、ワイン観光協会の人と海辺で待ち合わせしました。海にあるライムストーンを含む薄黄色の断層がこの土地の性質を知る上で一番いい勉強になるという理由でした。

d'Arenberg ワイナリー

 その後、私たちはd'Arenbergワイナリーを訪問しました。
4代目のワインメーカーであり、ファッションデザイナーであるチェスカーオズボーン氏にワイナリーと畑の案内とたくさんのワインの紹介をしていただきました。柔らかな風が吹き抜ける少し高台のワイナリーはオリーブやブドウの樹がとても似合う場所です。

Noon Winery

 最後に私たちは Noon Winery を訪ねました。Noon は赤ワインを生産する家族経営の小さなワイナリーです。ヌーン夫妻はこの地で主にグルナッシュとシラーズを育てています。アーティストの奥様が、ワインボトルのエチケットのデザインをするなど、夫婦二人で力を合わせて素晴らしいワインを造っていらっしゃる様子がとてもよくわかる素敵なワイナリーでした。

 今回の研修旅行は、Wine Australia の多大なご協力により、収穫のたいへん忙しい時期であったにもかかわらず、ワイナリー内の見学や試飲などの機会を持つことができました。また各関係機関の方との意見交換では、最新の情報の収集と踏み込んだ議論ができました、このような貴重な機会を持てたことは、国際化に向けた本カリキュラムの趣旨に沿っており、非常に良い学習の機会となりました。